恋の訪れ
だからもう一度、昴先輩から視線を外して、顔を背けると更に先輩は口を開く。
「あんなに想ってたじゃん、アイツの事。サクヤがさ、毎日のように言ってくっから結構うっとおしかったんだけど」
「…だって」
「だって、なに?」
「だって昴先輩が…」
「俺がなに?」
「だから昴先輩が気になって…」
「気になってって、なに?好き…じゃなくて?」
先輩はやっぱり意地悪だった。
絶対にあたしで遊んでる。
密かに笑う声に少しだけ眉を寄せた。
「…意地悪」
「つか意地悪なのは莉音だけど」
「あたしの返事はいらないって言ったじゃん」
「言ったけど状況が違うし。今は莉音の口から聞かねーと分かんないし」
「……」
「……」
「…好きだから。昴先輩が」
躊躇いすぎて言えなかった言葉が、すんなりと出てしまった。
言ったにも係わらず、未だにあたしを抱きしめてる昴先輩の口から呆れたようなため息が漏れる。
「遅っ。莉音ってさ、いつから消極的になったわけ?」
「消極的?」
「昔は俺よりも積極的でガツガツだったのに」
「そんな昔の事言わないでよ。覚えてないから」
「なぁ、莉音…」
抱きかかえられた身体が昴先輩の力によって、仰向けにされる。
真上から見下ろされる距離があまりにも近い所為で、自然に視線が先輩から避ける。