恋の訪れ
「…迷惑かけてごめんなさい」
「迷惑じゃねーし」
「先輩…今までの時間が勿体ないって思った事ないんですか?」
「そう思った事はあった。けど親父に金借りた手前、逃げ出すことは出来なかったから」
「い、一千万円っ、…」
「……」
不意に思い出したパンフレットの金額にあたしは声を上げた。
「どうしよう…あたし返せない」
「なんでお前が返すの?」
「だってあたしの…」
「俺が返すから。って言っても親父は返さなくていいって言ってたけど」
「さすが社長さんだね。前、聖くんに聞いたの。先輩のお父さんって凄いね」
「あの人もあの人なりに苦労してるけど。俺は知らねーけど香恋さんが言ってたな。つかなんでお前、聖と仲良くなってんの?」
「聖くん見かけによらず優しいの。ケーキ買ってくれたし」
「つかあのお金、後で返せって言われたんだけど」
「え、そうなの?」
ビックリした所為で先輩を見つめる。
案の定、先輩は眉間に皺を寄せため息を吐きだした。
「しかも、莉音が入院中のケーキ代も香澄から請求されたし。まー、あれは俺が悪いけどさ」
「そ、そうなんだ…。ご、ごめんね」
「別に」
「で、でも…美味しかったよ」
「ふーん…」
素っ気なく返した先輩はあたしの頬に自分の頬を滑らす。
熱が帯びた様に熱くなる体温とドキドキする心臓。
昴先輩の唇があたしの首筋を何度も通り、ピッタっと止まる。
「つかさ莉音のくれたクッキー上手かったけど、香恋さんの為に作ったと思えば、嬉しくなかったんだけど」
「えっ、」
「今度さ、俺だけに作って」
「うん」
再び滑り出した先輩の唇に心臓がもたない。
今更、なんで先輩にドキドキしてるんだろうと思った。
ドキドキして心も身体もこれ以上無理。