恋の訪れ
「ん、」
「あ、有り難うございます」
差し出された鞄を掴むと同時に深く頭を下げる。
なんだ結構いい奴じゃん。なんて思ってると、「別に」なんて素っ気ない言葉が返ってきた。
それ以上何も言わずにスタスタと足を進めて行く昴先輩の後を何故かあたしも着いて行く。
いや、別に着いて行ってるつもりはない。
ただ、出口が同じなだけ。
そして出口を出た瞬間、ふと気になった事があり、先行く昴先輩の背後に向かって、あたしは口を開いた。
「あ、あのっ、昴先輩!」
暗くなった辺りを響かせるあたしの声に、昴先輩は立ち止まって振り返る。
「何?」
「あ…スバル先輩でしたよね?」
念の為、一応間違ってないか確認しておく。
「そうだけど、何?」
「あの、お金…」
「え?」
「だからお金。…さっきの」
あたしの背後にあるカラオケ店に指差しながら呟くあたしに、昴先輩は同じくあたしの背後に視線を向ける。
「別にいいんじゃね?」
ホントにどうでもいいようにそう言った先輩は再び足を進める。