恋の訪れ
「だって…先輩もあたしも付き合おうって言ってないし、その…」
「なに?」
「ほら。昴先輩はもう遠い過去で忘れたかも知れないけど、言ってたよね?」
「なにを?」
「一回寝ただけで何で付き合わなきゃいけねーんだって。だ、だからね…」
こんな言葉をあたしの口から言うもんだから、思わず物凄く声が小さくなった。
別に言いたくなかった。
あたしの口から言いたくなかった。
でも、昴先輩は凄くモテるから…
恐る恐る、視線を上げ、昴先輩を見ると、先輩は物凄く眉を潜めてあたしを見てた。
「お前さ、そんな事―――…」
「あれ?莉音ちゃんっ、」
昴先輩の声を遮った方向に視線を向けると、少し離れた所から蔓延の笑みで手を振っていた美咲さんを目で捉える。
その瞬間、昴先輩の物凄いため息が聞こえた。
「あ、美咲さん…」
同じように手を軽く振ると美咲さんは足を進めて、あたし達の前で立ち止まる。
「久しぶり。元気?」
「はい。元気です」
「今から帰るの?」
「はい」
「気をつけて帰ってね。なんなら昴に送ってってもらいなよ。ね、昴?」
「つーか、こんな所で話しかけんなよ、」
昴先輩は一瞬にして機嫌が悪くなったのか、美咲さんに向かって低い声を出す。