恋の訪れ
「なんでよ。別にいいじゃんね?」
あたしに向かって微笑む美咲さんにコクリと頷く。
やっぱ相変わらず物凄い美人だ。
この年齢でここまで綺麗な人は居ないと思う。
お姉ちゃんも、香澄さんも真理子もサクヤ先輩も、殆どの人が先輩のお母さんは綺麗だって言ってたのが目の前にして物凄く分かる。
なのに先輩は…
「いい事ねーだろ、マジ迷惑」
そう吐き捨ててスタスタ歩いて行く先輩の背後に美咲さんは小さく一息つく。
「ほんと、誰に似たんだろう…」
小さく呟く美咲さんに思わず苦笑いになる。
「ごめんね、莉音ちゃん」
「いえ、」
「気をつけてね」
「はい」
軽く頭を下げ、先を進んでた昴先輩に追いつく。
「昴先輩っ、」
「あ?」
まだ不機嫌なのか、先輩はあたしを見てすぐ、視線を前に戻した。
「なんで怒ってんの?」
「つか、あんな所で美咲と話すなよ」
「えっ、なんで?」
「むしろ俺と居る時は無視しろって」
「えっ?なんで?そんな事出来ないよ」
「俺のお袋だって思われんのすげー嫌。そうじゃなくても、色々言われてんのに…」
「で、でも美咲さん、物凄い綺麗だから仕方ないよ。みんな言うのも無理ないと思うけど」
「だからそれが嫌だっつーの」
えー、なんでよ。
と思うほど、昴先輩とあたしの考えは違うらしい。
あたしだったら物凄く嬉しいのに…
だけどさっき話した所為か、周りに居る人たちの視線がチラチラこっちに向かっているのが分かる。
″さっきの人、昴先輩のお母さんなんだって″
″うっそー、超綺麗じゃん″
ヒソヒソと聞こえてくる声に、昴先輩のため息が聞こえた。