恋の訪れ
歩くペースが落ちる所為であたしと昴先輩の距離が離れていく。
あぁ、もう今日は帰っちゃおう。
「おい莉音。何処行く気?」
あたしと逆方向に足を進めてた先輩が立ち止まって、声を投げる。
「帰るの。あたし、こっちだし…」
「つかお前。俺にあんな事言っといて帰んのかよ」
「あんな事?」
なんて思った瞬間、ハッとして思い出す。
美咲さんと出会う前に昴先輩に言った事。
あぁ、あたし何言ってんだろう。
そもそも真理子が余計な事するから、ついあたしの口が。
「話し、終わってねーけど」
「うん、でも…」
「でも?」
「ううん、何でもない」
軽く首を振って、昴先輩の方へと近づく。
別に嫌じゃない。
一緒に帰るのは嫌じゃない。
ただ嫌なのは周りから飛び交う視線だった。
それが物凄い嫌。
″超カッコいい″だとか、″イケメンすぎてヤバい″だとか。
でもそれに交じって、″昴先輩って美人好きだと思った″とか、″彼女じゃないでしょ″と言う痛々しい声。
はぁ…嫌だ。
もの凄い嫌。
学校からこうやって帰る事は初めてだから尚更嫌。
先輩と一緒に居ると絶対にありえる試練なんだろうけど、結構きつい。
先輩はあたしと居る事に恥ずかしくないんだろうか。なんて思ってしまった。
気が…物凄く重い。