恋の訪れ

「なぁ、莉音。もう帰ろ」


不意に聞こえた声に顔を向けると、昴先輩疲れた表情を見せて隣に腰を下ろす。


「うーん…帰りたいけど、また何か言われるし」

「はぁ?んな事、気にしてたら帰れねーだろ」

「うん、そだね」

「すげー疲れた」

「昴先輩、ワイワイすんの苦手だもんね」

「苦手っつーか限度がある。ってかお前もだろ」

「うん、そうだよ。だって真理子達のテンションについていけないもん」


真理子達に視線を向けると、新たに先輩たちの友達が台を囲んでた。

真理子は相変わらずはしゃいでて楽しそう。

だからと言って、そこに加わるのも嫌だった。


「じゃあ帰るぞ」


スッと立ち上がった先輩は、鞄を肩に掛けてあたしを見下ろす。


「何も言わなくていいの?」

「つか今までだって勝手に帰ってただろ」

「あ、そっか」


確かにそうだった。と思いながら楽しく騒ぐ真理子達に視線を送りながら、外に出た。


「さむっ、」


出た瞬間、あまりにも寒くて口から漏れた言葉。

首に巻かれているマフラーを再び綺麗に巻きつけた。


寒さの所為で手が悴む。

両手を合わせて擦っていると、すっと昴先輩があたしの右手を掴んだ。


「冷て。なんでお前いっつもこんな冷てーの?」

「うーん…心が温かいからだよ」

「はいはい」


素っ気なく返した先輩にクスクス笑みを漏らす。
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