恋の訪れ
「温かいね、先輩の手…」
「そうか?」
「うん。あったか――…」
言いかけた言葉が思わず止まった。
大通りを挟んで反対側の通路に、お姉ちゃんが居たから。
茶色い長い髪は頭上に束ねてて、黒のファーがついたショートのコート。相変わらず短い黒のスカートに真っ赤なニーハイブーツを履いたお姉ちゃんが。
そんな恰好は普段から当たり前だけど、その隣にはスーツを着こなしたお姉ちゃんと同じくらいの男。
男はお姉ちゃんの鞄を持つ反対側の手はガッツリお姉ちゃんの腰に回ってた。
…やばっ、絶対ホストじゃん。
「おい、莉音」
「あ、えっ?」
昴先輩の声に我に返る。
「どした?」
「…お姉ちゃんが居る」
「香恋さん?」
立ち止まって大通りの反対側を見る昴先輩は「あー…」と声を漏らした。
「ねぇ、彼氏かな」
「さぁ…」
「あれって絶対ホストだよね」
「つか香恋さんにとったら普通じゃね?よく見るけど」
「えっ、知らなかった。…ってかさ、昴先輩のパパも若い頃、ホストだったんでしょ?」
足を進めた瞬間にふと思い出した。
「あー…なんか香恋さんが言ってたような」
「凄いよね。ずっとNO1だったって言ってたよ?」
「つか、すげぇ興味ねーわ」
「えー、なんで?凄いじゃん、ヤバいよね」
ちょっと興奮するあたしに昴先輩はため息を吐き捨て、あたしを見下ろした。