恋の訪れ
「なんでって莉音が困らないように」
「その時でいいんだけど…」
「その時じゃ遅いだろ」
「そんなに覚えられない」
「だからそのためにノートに必要な事、書いてんだろ」
昴先輩の手は止まることなく、ノートに文字を埋めていく。
隣から見つめてみるものの、さっぱりと分かんない。
意味も覚え方も書いてあるんだけど、覚えるのに相当時間が掛かりそうだった。
「昴先輩、ケーキ」
「あ?」
ペンを走らせながら俯いたまま言ってみる。
案の定、先輩の低く呟いた声が頭上から落ちた。
「もう終わる」
あと少しだけ。
ここまでって言われた所まで達する。
昴先輩の表情なんて見てないけど、ため息を吐かれたんだから、きっと呆れてる。
何も言わずに立ち上がって、部屋を出て行った先輩にホッとした所為で、思わず床にバタンって倒れた。
ほんとスパルタ並み。
もう塾の講師でもしちゃえばいいのにって勢い。
「おい、終わったのかよ」
暫くして入って来た昴先輩に、「うん」小さく言って項垂れる。
「食わねーの?」
なんて言われた言葉に、慌てて身体を起した。
「食べるに決まってる」
目の前に置かれたケーキの箱。
その箱の中を覗くと、ここぞとばかりに頬が緩んだ。