恋の訪れ
「ねぇ、サクヤどー言う事!?」
人すら全く来ない場所。
校舎の裏に位置する場所で、香澄先輩の声が物凄く大きく響いた。
曲がり角を死角に、あたしと真理子はそっと覗き込む。
香澄先輩の表情はもの凄く怒ってて、あたしと真理子は思わず目を合わせて首を傾げた。
「あ?なに?」
サクヤ先輩は面倒くさそうに髪を乱暴にかき乱し、後ろのフェンスに背をつけた。
「今日、タツキから聞いた!昴が留学するって、どー言う事なの!?」
…え?ちょっと、待って。今、香澄先輩はなんて言った?
昴先輩が留学?
え、なにそれ。意味分かんない。あたし何も聞いてないし。
思わず香澄先輩達を覗き込むようにしてた身体を引っ込めた。
隣にいる真理子から「え、なに?どー言う事?」なんて小さい焦る声が聞こえる。
「ねぇ、サクヤ答えて!昴が留学って、それホントなの?」
「あぁ…」
サクヤ先輩の呟きに頭の中が真っ白になる。やだ、倒れそう…
あたし何も聞いてない。
そんな事、何も聞いてないんだけど。
「莉音は、莉音は知ってるの?」
「いや、知らねーと思う」
「思う?思うって、何?なにも言わずに行こうとしてるの?」
「きっとそう」
「はぁ!?どうして?なんで言わないの?」
「俺じゃねーだろ!昴に聞けよ」
香澄先輩の響いた声の後、サクヤ先輩の少し怒鳴った声が辺りに反響した。