恋の訪れ

「…5年?そんな期間、莉音が待てるわけないよ」

「……」


あたしの事が解っているかのように香澄先輩の言葉が通過する。


「昴は、昴はそこに何の為に行くの?」

「医者になるために。ここじゃ…日本じゃ医学的に発展してないから、海外で勉強するって」

「……」

「じゃないと、莉音ちゃんの耳、治せないって」

「ご、5年も?5年も必要なわけ?」

「そうみたい」

「昴は?最近、昴はどうしてるの?」

「さぁ、知んね。アイツと言い合ってから、ここ最近なんも話してねーし、会っても居ない」

「明日、卒業式でしょ?来るの?」

「さぁ、どうかな…」


やっぱ、あたしだった。

あたしの耳の所為で昴先輩は行っちゃう。

だったら別に治してもらわなくて、いい。

別にそんな事、頼んでもないし、望んでもいない。

どうしてあたしが自分自身で壊した耳なのに、昴先輩が治すの?


分かんないよ…


頭がフラッとした。

真理子に抱えられながらも、眩暈が物凄くて手に力が入んない。

その所為で、手に持っていた鞄が、ズトン…っと言う鈍い音をたてて地面に落ちた。


その音に真理子が焦って、身体が少し上がったのが分かる。

そして、その数秒後、「…え、莉音ちゃん」サクヤ先輩の焦った声が耳に入り込んだ。



< 369 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop