恋の訪れ
「…5年?そんな期間、莉音が待てるわけないよ」
「……」
あたしの事が解っているかのように香澄先輩の言葉が通過する。
「昴は、昴はそこに何の為に行くの?」
「医者になるために。ここじゃ…日本じゃ医学的に発展してないから、海外で勉強するって」
「……」
「じゃないと、莉音ちゃんの耳、治せないって」
「ご、5年も?5年も必要なわけ?」
「そうみたい」
「昴は?最近、昴はどうしてるの?」
「さぁ、知んね。アイツと言い合ってから、ここ最近なんも話してねーし、会っても居ない」
「明日、卒業式でしょ?来るの?」
「さぁ、どうかな…」
やっぱ、あたしだった。
あたしの耳の所為で昴先輩は行っちゃう。
だったら別に治してもらわなくて、いい。
別にそんな事、頼んでもないし、望んでもいない。
どうしてあたしが自分自身で壊した耳なのに、昴先輩が治すの?
分かんないよ…
頭がフラッとした。
真理子に抱えられながらも、眩暈が物凄くて手に力が入んない。
その所為で、手に持っていた鞄が、ズトン…っと言う鈍い音をたてて地面に落ちた。
その音に真理子が焦って、身体が少し上がったのが分かる。
そして、その数秒後、「…え、莉音ちゃん」サクヤ先輩の焦った声が耳に入り込んだ。