恋の訪れ

「り、莉音…」


続けて香澄先輩の戸惑った声までも聞こえる。

だけど目から溢れ出す涙は止まんなくて、必死で手で止めようとしても止まんなくて、そんなあたしの身体を真理子がそっと離した。


「どう言う事ですか?昴先輩が留学するって。それ本当ですか?」


真理子の真剣な声。

あたしが聞こうと思っても、声が出ることがなく溢れる涙を必死で拭ってた。

それとともに、聞こえてくるのはサクヤ先輩のため息。


「…あぁ、昴は本当に行くよ」

「莉音に何も言わずに行くなんて酷いです」

「それは俺にも分かってるから」

「なんでそんな簡単に決めちゃうんですか?」

「簡単じゃ、ないと思うよ昴は。物凄く考えた結果だと思う」

「でも、だからって、」


もう聞いてられなかった。

何も聞きたくなんてないし、何も考えたくもない。


無造作に涙を拭って、地面に落ちた鞄を掴むと同時にあたしは駆け出した。


「り、莉音っ、」


背後から香澄先輩の焦った声が飛んでくる。

だけどあたしはその声を無視して、必死に走った。


だからだったんだ。

昴先輩の様子がずっとおかしかったのは。

あんなに必死になってあたしに勉強を教えてたのは。

あのノートだって、あたしが困らないようにと思って書いてたんだ。


ココに来て教えてもらうって、言った時。返事なかったのはその所為だった。

昴先輩の家に行っても、その昴先輩が居ないから答えなんて出せなかったんだ。


いつから決めてたの?

いつから?


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