恋の訪れ

「…莉音。なぁ、莉音?」


身体を何度も揺すられる。

せっかく必死で涙を止めたのに、また再び先輩の声を聞くと涙が出そうだった。


「ごめん、莉音。サクヤから聞いた」


ごめん。って、何に謝っているんだろうか。

あたしが泣いてる事?

勝手に行ってしまう事?

何も話さなかった事?

相談しなかった事?


何に対してか分かんない。


「…莉音に言わなかった事、悪いと思ってる」

「……」


言わないことが悪い事なの?

あたしを置いて、行っちゃうことは悪くないの?

あたしは嫌だ。絶対に。離れたくなんてないし、そんな5年もの間、昴先輩を待てる事は出来ない。


「なぁ、莉音。聞こえてんの?俺の声…」

「……」


聞こえてる。

ま、正確に言うと、少し聞きづらいからいつもより音量は小さい。

泣きじゃくって、頭も何もかも疲れてる所為か、今は調子が悪い。

だから、昴先輩はその事を分かってるんだと思う。


「なぁ、莉音。顔だせって」


無理。絶対に嫌。

わがままとかじゃなくて、昴先輩の顔なんて見る事が出来ない。


それに話だって聞きたくない。

だって、それを言いに来たんでしょ?

だったら何も聞きたくなんてない。

これ以上、涙流したくない。
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