恋の訪れ

赤く腫れあがった瞼を冷水に何度も冷やし、少し落ち着かせた。

何度も何度も漏れて来るため息が、嫌ってくらいに自分の耳に入り込む。


髪を乾かしながら目の前の鏡に映る自分に、またため息を吐きだす。

さすがにもう寝れそうと思った。

相当疲れたのか、瞼が重く感じる。


もう一度、自分の部屋を入ろうと開けた瞬間、


「…っ、」


ベッドに凭れる様に背を付けている昴先輩の姿を目にした途端、咄嗟にドアを閉めた。

なんでいるの?もう帰ったんじゃなかったの?


「…おい、莉音」


案の定、背後から昴先輩の声が聞こえたと同時に腕を掴まれる。


「いつまで無視すんの?」

「……」

「都合悪くなったら無視すんの、やめろって」

「…だって!」


やっと声が出たけど、それ以上は口が開く事なかった。

グッと引っ張られて部屋に入り、昴先輩に両肩を押される所為で必然的に腰を下ろす形になる。


座り込んで、膝を抱える様にしてあたしは顔を沈めた。


「もう、単刀直入に言うけど。5年間、アメリカに留学する」

「…っ、」


アメリカって、そんな事を言うからまた涙が零れた。

そんな事、昴先輩の口から聞くと涙が溢れ出した。

ホントだったんだって言う現実を味わってしまったから。
< 375 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop