恋の訪れ
「…莉音、」
不意に聞こえた声に身体が軽く飛び跳ねる。
閉じていた目をゆっくり開けたけど、俯いたままで昴先輩の顔を見る事が出来なかった。
「居ねーからビックリすんだろ」
そう言って、目の前にあるペットボトルの水を昴先輩が掴み喉に流し込む音が微かに聞こえる。
そのペットボトルが再び同じ位置に置かれてすぐ、背後からギュッと抱きしめてくる昴先輩の温もりが肌に伝わった。
「…莉音?」
「……」
そう小さく呟いた昴先輩はあたしの肩に顔を沈める。
「何とか言えよ、」
「……」
困ったように言葉を吐き出す昴先輩から小さくため息が漏れる。
こんな風に抱きしめられる事も、会って話し合う事も、すぐに飛んで行ける事も出来なくなるんだ。と、思うと切なさともどかしさで感情が乱れそうになる。
でも、だけど。
今回はあたしが折れないといけないような気がして…
だからと言って、口には出せなかった。
「あの時の莉音と一緒…」
「……」
右の耳元で昴先輩が小さく呟く。