恋の訪れ
「俺が美咲と海外住むってなった時、莉音は嫌だ嫌だって泣きじゃくってた」
「……」
「あの時はガキだったから了解得ずに行けたけど、でも今は莉音の了解がほしい」
「……」
「なぁ、莉音?」
俯くあたしの長い髪を昴先輩はスッと救い上げて、あたしの耳に掛ける。
そのまま背後から覗き込むようにして、あたしの頬から首に掛けて昴先輩は唇を滑らした。
分かった。って言っちゃうと全てが決まってしまう。
言わないといけないんだけど、何故かその言葉が言えない。
「…別れたく、ないよ」
やっと声が出たと思えば、その言葉しか思いつかなかった。
そんな事、言うんだったら初めから付き合わない方が良かった。
「それは俺も同じだけど」
「昴先輩は、あたしと付き合おって言った時から、もう留学するって決めてたの?」
「そん時は決めてない。莉音の英語の勉強を教えてた辺りから」
…やっぱり。
やっぱりそうだったんだ。
だって、おかしかったもん。
だからと言って、それが留学する事だったなんて全く想像つかなかったし、想像を遥かに上回ってた。
「…そっか。何度か帰って来るの?」
「そこまで考えてない」
「…そっか。あたし…、そんな長い間、会えなかったら浮気しそう」
「てか、そんな事、莉音に出来んの?」
やっぱり昴先輩は意地悪だ。
あたしが出来ないって分かってるから、聞いて来る。
出来ないよ、そんな事。
出来るわけ、ないじゃん。