恋の訪れ
「でも昴先輩は出来るでしょ?」
「てか俺、あっちで女探しに行くんじゃねーんだけど」
「分かんないよ、そんな事。人の気持ちって変わるから」
「俺は変わんねーと思うけど。もし莉音が変わったとしても、俺は変わんない」
「…約束、してい?」
「いいよ」
どのタイミングで涙が出るんだろうと思った。
不意に落ちた涙の所為で視界が滲む。
その目をそっと拭うと、あたしは「もう、行こう…」そう言って昴先輩の腕を離した。
泣かないようにと涙を押し殺し、再び入ったベッドで昴先輩はギュッと背後からあたしを抱きしめる。
「莉音、こっち向かねーの?」
「向かない」
「なんで?」
「泣くから」
「って、もう泣いてんじゃねーかよ。この泣き虫」
「だって昴先輩、泣かすの得意だもん」
「得意じゃねーし。でも莉音はほっとけない」
グッと昴先輩の力によって仰向きにされる。
うす暗い部屋に目が慣れてきたのか、真上から見つめられる昴先輩の表情が鮮明に分かる。
「…いつ旅立つの?」
昴先輩を見つめて戸惑い気味に絞り出した声。
その声すら泣きそうで、息を飲み込む。
「一か月後」
小さく呟かれた声に、あたしは昴先輩から視線を逸らし、溢れそうな涙をそっと拭った。