恋の訪れ
―――…
ゆっくりと重い瞼を開ける。
その視界から微かに見えた昴先輩はいつの間にか髪を綺麗に整えてた。
そしてあたしに背を向けている昴先輩は制服のシャツに腕を通すところだった。
「…昴先輩?」
シーツを少し剥ぎ取ると、昴先輩はベッドに寝ころんでいるあたしを見下ろす。
「あー、おはよ。俺、学校行くから」
「学校?」
「卒業式。最後くらい行かねーと」
あぁ、そっか。卒業式なんだ…
つい休みだから昴先輩も同じようにと思ってた。
「制服、持ってきてたの?」
「あー、ほら昨日。途中で帰った時に」
「あ、あの時か、」
そっか。あの時、一旦家出たのって制服取りに行ってたんだ。
そんなに昴先輩とは学校で親しく会う事はなかったけど、でももう学校にすら居なくなると思えば悲しい。
むしろ、あと一か月も経てば日本にすら居ない。
会いたい時に会えるという、そんな簡単な事も出来なくなってしまうんだ…
「莉音?もう行くわ。遅れそう」
「うん。いってらっしゃい…」
「玄関にある鍵、掛けた後にポストに入れとくから」
「うーん…後で掛けるからいい」
「ぜってー掛けねーだろ。昨日も玄関開いてたしよ、」
「……」
「しかも今から寝る気、満々じゃねーかよ」
「分かった?」
クスクス笑うあたしに昴先輩は苦笑いを漏らす。
まだ頭が重い。昨日の泣き疲れか、物凄くまだ眠い。
だけど昴先輩にはこれ以上、泣き顔も、わがままも言いたくないと思った。