恋の訪れ
離れていく手
――…
3月。卒業式が終わって早一週間。
昼休み、食堂のテーブルでうな垂れる様に突っ伏して遠くを見つめる。
その視点すらまばならないように視界が霞んだ。
「ねー、莉音ってば、聞いてる?」
真理子の呆れた声とともに零れるため息。
「うーん…」
「だからさ、今日はどうするの?」
「今日?」
「遊ぶか遊ばないか」
「昴先輩と?」
「違うって!あたしとだってば!」
「あー…真理子か」
「はぁ!?真理子かって、何よ!?」
真理子は突っ伏して寝そべるあたしの顔を覗き込んで、ここぞとばかりに頬を膨らませた。
「だって…」
「で、昴先輩と会うの?」
「分かんない。でも会いたい。でも昴先輩、忙しいの…」
だって、もうすぐ旅立っちゃうもん。
ほんとに会えなくなる。
「はぁ…もう、ほんとアンタだめだわ」
「……」
「ねぇ、莉音?弘晃も心配してたよ?莉音の調子がおかしいって」
「ふーん…」
「わっ、莉音ったらかなりの重症じゃん。ちょっとアンタ弘晃の時より重症じゃない?」
「そうかも…」
「それは自分でも自覚あんだ。ねぇ、莉音?ケーキ食べに行こうよ」
覗き込んだ真理子はニコッと頬を膨らませる。
「あの美味しいやつ?」
「はぁ?あんた、あたしにあの高いケーキを買えっての?」
「じゃ行かない…」
「もー、分かったから!じゃ、行こう」
その言葉に思わず笑みが零れたのは言うまでもなかった。
真理子は物凄く呆れた表情をしため息をついた。