恋の訪れ

「…莉音?」

「……」

「おい莉音?」

「……」


俯くあたしを覗き込むように昴先輩の顔が現れる。

ユラユラとあたしの頭を揺する昴先輩は、何故か一息吐き、あたしの身体を抱きしめた。


「なんで無言?拗ねてんの?」

「……」

「おーい、莉音?」

「……」


この話はいっぱいしてきた。

先輩と離れる話はいっぱいしてきた。

その度に悲しくなって寂しくなって、どうしようもないくらいに切なくなった。

自分の中で、先輩が決めた事だからって、割りきっていたけど、やっぱり会えないのは寂しい。

昴先輩がこの日本を離れる理由が、あたしにあるから。

考えれば考える程、悲しくなって目が潤む。

そして次第に頬に涙が走った。


それを誤魔化す様に昴先輩の肩に顔を沈めた。


「…莉音の泣き虫。お前、そんな泣き虫じゃねーだろ」

「……」

「なんか言えよ、莉音」

「…頑張ろうって思ってた。昴先輩が帰って来るまで頑張ろうって思った」

「うん」

「でも、やっぱり待てない」

「……」

「あたしも行きたい。…先輩、連れてってよ」

「無理」

「なんでそんな冷たいの?」

「莉音も来たら、勉強に集中できねーし」

「居ない方が集中できないよ?きっと…」

「……」

「ねぇ、先輩?あたし学校辞める」

「あのな、莉音…」


そう呟いた昴先輩の口から深いため息が漏れる。

言っちゃいけない言葉だと分かってても勝手に口が開く。

昴先輩が困るって分かっているのに、必然的に口が開く。


我慢すればするほど、心が苦しくて口が開いちゃう…
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