恋の訪れ
「分かってる。分かってるよ、こんな事言っちゃダメだって事。だって寂しいんだもん」
頬を膨らませて、顔を顰める。
そんなあたしの表情を見た先輩は、あたしの頭をそっと撫ぜた。
「莉音だけじゃない。俺も寂しい」
「ほんとに?ほんとのほんとに?」
「あぁ。寂しいし、お前はすぐに誰かにホイホイ着いてくからな、心配」
「着いて行かないし」
「ケーキとか言われたら着いて行くだろ」
「行かない。我慢する」
「我慢ねぇ…食いたかったら美咲に買ってもらえ」
「えー…そんなの頼めないよ」
「俺が言っとく。あいつ莉音の事、好きだし」
「うん。あたしも美咲さん好き。いいよねー先輩。綺麗なお母さんで」
「怒ったらすんげぇ、うっさいぞ」
「えー…そうなの?そんな風には見えないよ?」
「親父よりうっせーから。まー…あれだな、俺は美咲と2人で居た期間が長かったからな」
昴先輩の幼少期?
あたしの記憶には小さい時に遊んだ記憶しかない。
もう、遠い、遠い昔の事。
「ねぇ、どうして先輩が美咲さんと海外に住んでたの?聖くんじゃなくて…」
「聖はまだ幼稚園だったから。俺と行ったほうが手がかからなかったからだろ。二人連れて行く事に親父も反対したって聞いたし」
「へー…じゃあ何年も聖くんは翔さんが見てたの?凄いね、先輩のパパ」
「見る訳ねーじゃん。聖は沙世ちゃんに見てもらってたし」
「沙世ちゃん?」
「あー…ばーちゃんな」
「おばあちゃん?昴先輩の?」
「あ、いや、違う。俺のばーちゃんはとっくに居ねえけど、なんつーの?親父の母親の友達?…かな?」
「へー…」
あたしの知らない事が沢山ある。
その知らない事が、これからもっと増えて行くんだ。
先輩が留学する5年間は何も知らない空白になる。
昴先輩が行くことに、あたしはきっとまだ納得できてないんだ。
まだ、出来てない…