恋の訪れ

「…い、莉音?」

「あ、…え?」

「お前、また意識飛ばしてただろ」


はぁ。とため息を吐く先輩に思わず眉を下げてしまった。

そしてすぐに、あたしはハッとする。

昴先輩の前では悲しそうな顔をしないって決めたのに、ついしてしまった事に慌てて笑みを作った。


「下手くそ。無理に笑ってどーすんだよ」

「痛いよ…」


昴先輩があたしの頬を抓る。

そのあたしの頬にある昴先輩の手をあたしはそっと握りしめた。


「莉音…」

「先輩。…卒業おめでとう」

「急に、なに?」

「うん。言ってなかったな、と思って」



こうやって先輩に触れられるのは後、どれくらいなんだろう。

こうやって先輩の傍に居られるのは後、どれくらいなのだろうか。


「ありがと」

「なんか卒業祝いでも買っとけば良かったかな」


エヘヘ。と困ったように笑うあたしに昴先輩目は笑ってなかった。


「あるよ、ここに」

「え?」

「ここに、あるけど」


掴んでいたあたしの手が離される。

その昴先輩の指がそっとあたしの唇に触れる。


「…っ、」

「物なんて何もいらねーし。莉音だけでいい」

「昴せっ、」


不意に重なった唇から熱が込み上げる。

優しく丁寧にキスをしてくる昴先輩に意識が朦朧としてくる。

昴先輩とのキスは頭が真っ白になるくらい感じてしまう。


「…莉音?」


スッと離れた唇から昴先輩の声が落ちる。

閉じていた目を開けると、昴先輩はあたしをじっと見てた。

唇が触れるか触れないかの距離。

あたしの名前を呼ばれるだけでドキドキする。


昴先輩が、スキ。
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