恋の訪れ

「どした?」

「線香忘れた」

「線香なら持ってきたぞ」

「あ、そうなの?」

「あぁ。――…昴?」

「うん?」


パパの返事に気だるそうな先輩の声が耳を掠める。


「今から墓行った後、沙世んとこ行ってくっから遅くなる」

「あぁ」

「聖にも言ってあっけど、あっちで飯食うから」

「どーぞごゆっくり」


またまた気だるそうな先輩の声。


「あ。焼肉の用意はしてるの。なんなら莉音ちゃんも良かったら食べてって」

「あ、はい。ありがとうございます」

「じゃあね。葵と諒ちゃんによろしくね」

「はい」


ヒラヒラと手を振る美咲さんにあたしも手を振る。

車に乗って走っていく車をジッと見つめてた。


「おい、」


その声で振り向くと既に昴先輩は玄関のドアを開けていて、あたしは慌てて駆け寄る。


「つかお前さ、さっきから何ニヤけてんだよ。気持ちわりっ、」

「気持ち悪いとか言わないでよ」


先行く先輩に膨れっ面になり、あたしもリビングに入る。


「お前がずっとニヤニヤしてっからだろ」

「だってね、だってね。パパと美咲さん、仲良しだなーって思って」

「はぁ?」

「だってさ、美咲さんパパの事、アナタって呼んでたんだよ?」

「それがどした」

「なんかキュンキュンした」

「は?馬鹿じゃねーの、お前。普通にアイツらにキュンキュンとかねーわ」

「もぅ、すぐ馬鹿って言う」

「馬鹿だかんな。仕方ねーだろ」

「だってさぁー、ママはパパの事アナタって呼ばないもん」

「はいはい」

「だからなんか美咲さんとパパにドキドキしちゃった」

「はいはい。馬鹿はケーキでも食ってろ」


そう言って先輩は冷蔵庫から取り出してきたケーキの箱をテーブルに置いた。
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