恋の訪れ
「いいとこなのに、もう辞めんの?」

「だ、ダメだよ先輩。みんな居るから集中ー…あ、何でもない」


思わず言いかけてしまった。

言いかけてしまって、また慌てたせいか目が泳いでしまった。


「集中ってなんの?」


やっぱり昴先輩はそこの部分をちゃんと聞いていたみたいで、あたしは頬を緩めながら首を傾げた。


「え、そんなこと言ってないよ」

「言っただろ、みんなが居るから俺とのキスに集中出来ねーって」

「言ってないよ」

「つか、なんで戸惑って赤くなってんの?キスもセックスも何回もしてんのに」

「…ーっ、」


もう言わないでよ、そんな事。

更に俯くあたしに昴先輩は面白そうにクスクス笑う。


「今更、恥ずかしがんなよ、」


フッと笑った先輩は、その場を離れてリビングへと行く。


「もぅ…」

小さく呟いたあたしは手に持っていた紙パックにストローを挿し、乾ききった喉に流し込んだ。

リビングに出ると相変わらず騒ぎあってる皆に視線を向ける。


「あー、莉音どこに行ってたの?って、アンタなんで顔赤いのよ」


真理子は不思議そうにあたしの顔を覗き込んできた。


「えっ、赤くなんてないよ」


だから思わず頬に触れてみる。


「赤い。火照ってる」

「そ、そんな事ないからっ、」


未だに見つめてくる真理子の横を離れ、あたしはさっきまで居た席に着いた。

…んだけども。
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