恋の訪れ
「莉音ちゃん、さっき昴とキスしてたっしょ」


隣に来たサクヤ先輩が不気味な笑みを漏らしながら、あたしの耳元で囁いた。


「え、えぇっ、し、してないよっ、」

「俺、適当に言ったんだけど、まさかの図星?莉音ちゃん動揺しすぎ」

「え、なに言ってるんですか?」

「だからキス」


ほんと、なんなの、この先輩。

絶対に面白がってんじゃん。

あたしが危険な状況にさらされてる事も知らずに昴先輩は鉄板に肉を並べてる。


「してないですから」

「へー…、その続きは?」

「はい?」

「セックス」

「ちょっ、先輩っ、」

「いいよ。2階でしてても」

「えぇっ?」

「俺らは気にしないから。2階で莉音ちゃんと昴がセックスしてて、1階で俺らは焼肉食ってるだけ。ただそれだけの事だろ?」


サクヤ先輩が恐ろしく怖い。

あたしの顔を覗き込んで笑うその笑みが怖い。


忘れてた。

サクヤ先輩が危険な人だって事を忘れてた。


「もぅ、サクヤ先輩、虐めないでよ」


頬を膨らませたあたしにサクヤ先輩はクスクス笑う。


「かわいいね、莉音ちゃん」


そんな事を言って、「腹減ったー」なんて声を出し、焼けた肉を誰よりも先に頬ばっていた。


「お前、食ってばっかじゃなく焼けよ」

「は?さっきまでお前、居なかったのによく言うわ」


昴先輩とサクヤ先輩がお互いに言いあう。

もう、こうなったら楽しんでやろうと思った。

せっかくだし、楽しまなきゃ損だと思ってしまった。


だから今日のあたしは主役だから食べることに専念した。

あたしの為の晩餐会なんでしょ?

だったらあたしの会じゃん。
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