恋の訪れ
だから、もういいや。なんて思ってあたしはその後もいっぱい食べつくしてやった。

食べ終わった後はみんなでワイワイして、昴先輩の家がお祭り状態になっていた。


「莉音、片付けるから手伝ってよ」


ソファーに座ってると、香澄先輩が声を掛けて、チラッとダイニングテーブルに視線を向ける。


「あ、うん」


香澄さんがテーブルの上にある食器を重ねている。

だからあたしも同じように食器を重ねて流し台へと運んだ。


「莉音、ちょっとは落ち着いた?」


水を出して食器を洗う香澄さんはあたしを見てフフっと笑った。


「何が…ですか?」

「莉音、ずーっと元気なかったからさ。昴が行くって分かってから、莉音、死にそうな目してた」

「……」

「もう大丈夫?」

「…大丈夫じゃないですよ。昴先輩が旅立つまで後三週間もないんですよ…」

「そっか。…そうだよね」

「でも、わがまま言っちゃ先輩が困るから必死に我慢してるだけです」


いっぱい今までわがまま言ったからもう言えないし、もう泣けない。

そんな事したら昴先輩が困るから、だから必死で我慢してる。


「別にいいじゃん、我慢しなくたっても」

「え?」

「莉音に我慢は無理でしょ?昴が居る間はもっと甘えちゃえばいいんだよ。昴が困るほどわがまま言っちゃいなよ」

「だって、そんなことしたら先輩…」

「昴、莉音の事、大好きだから聞いてくれるよ?なにも困らないと思う」

「でも…」


フフっと笑って頬を緩ませる香澄さんはあたしを見てさらに笑みを向けた。


「あ、そだ。あたしね、4月から香恋さんが行ってた大学に行くの」

「え、そうなの?」

「だから、まだまだ莉音と会えるよ?タツキもサクヤもみんな一緒」

「そうなんだ」

「うん。だから元気だしなよー」

「あーっ、ちょっと香澄さんっ、」


急に抱き着かれた所為で身体が後ろに倒れそうになる。

そんなあたしを見て香澄さんは更に笑った。
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