恋の訪れ
「あー、疲れたぁ。お風呂はいろーっと」

「え、ちょっと待って。あたしが先なんだから」

「はぁ?あたし疲れてんの」

「あたしが先に帰ってきたんだからね」

「アンタ昴と居ただけでなーんも疲れてないじゃん」

「お姉ちゃんだって疲れる事なんもしてない――…」

「あー、もう二人ともやめて」


あたしとお姉ちゃんの間を割って困った顔をするママがため息を吐き出す。

そんなあたしたちの間をクスクス笑いながらパパが通り抜け、リビングに入って行った。


「ごめんね、昴君」

「いえ」


先輩は小さく呟き、呆れた表情であたし達を見てた。


「じゃあな、莉音」

「うん」


昴先輩に頷くと、後ろからタバコを咥えたパパが来る。

先輩が玄関を出た後、それに続いてパパも出て行った。


結局、お姉ちゃんにお風呂を先越されてしまって、あたしはふくれっ面になりながらリビングのソファーに寝転んでた。

だけど、出て行ったパパが一向に入ってこないのが気になり、あたしは居間から玄関が見える窓をそっと開けた。


「ー―…別に莉音の為とかそー言うんじゃないっすけどね」


不意に聞こえたあたしの名前に、視線を遠くに飛ばす。

車の前で昴先輩が居て、その前でパパがタバコを吸っている。


「俺、今でも思うんすよ。なんであの時、助けなったんかなーって。怖いのほうが勝ってしまって何もできなかった」

「お前の所為じゃないよ。昴は何も悪くない」

「だから莉音の為に医者になるとかそー言うんじゃなくて、昔からなりたかった職業っすから」

「そだな。昴は昔っから言ってたな。医者になるって」

「そうっすねー…」

「すげぇな、お前は。美咲にそっくりだわ」


パパがタバコの煙を吐きながらクスクス笑いだす。
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