恋の訪れ
「さー…似てんすかね?」

「すげぇ似てる。あいつもお前と同じで卒業して5年間、留学してたからな。やり遂げる目標とか?根性が全く同じ」

「ハハッ、そうなんすね」

「ほんと見てて思うわ。美咲と翔さんの息子だわって」

「なんすか、それ」


昴先輩の笑い声が聞こえる。

その笑い声を聞きながら壁に背をつけてそのまま腰を下ろした。


「あいつら2人の生き方に昔っから驚いてっから」

「そーなんすね」

「今月末に行くのか?」

「2週間後っすかね」

「そうか。気を付けて行って来いよ」

「はい。…莉音は、、」

「あいつはまた泣くだろーな」

「もういっぱい泣いてますよ」

「ははっ、そか。昴がさ、美咲と海外行くとき、大泣きだったからな。今回もそれか」

「そーっすねぇ…。でも連れて行くわけにもいかねーし」

「当たり前だろ。さすがに俺、怒るわ」

「ですね」


2人の笑い声があたしの耳に入って来る。

パパと昴先輩の会話が頭の中を駆け巡る。


「元気でな。帰ってきたら顔、見せろよ」

「はい。じゃ、帰ります」

「あぁ」


バタンと車のドアが閉まる音が聞こえる。

その音でハッと意識が戻り、あたしはパパが入って来る前に慌てて、自分の部屋に駆け込んだ。


そしてそのままベッドに倒れこむ。


昴先輩のなりたかったもの。

医者。


あたしには未知の世界の職業だった。


なのにあたしは先輩が行くことに、反対して、引き止めて、そして困らせてたんだ。

一緒に行くなんて言って、困らせてた。


ごめんね、昴先輩。

昴先輩の事、何も知らなかったよ。
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