恋の訪れ
最終章
昴先輩が旅立つ日前で秒殺の様に早かった。

泣かないようにって、泣かないようにって、ずっとそう思って、毎日を過ごしてたけど、やっぱりその日になると、涙が止まらなかった。

昔のあたしなんて覚えてないけど。

きっとそれ以上に泣いていた――…


「莉音、昴先輩と話してきな」


空港で、真理子があたしの背中を擦り、宥めようとする。

みんなで押しかけてしまった空港。


「莉音、行ってきな」


香澄先輩が寂しそうな目をしてあたしの頭をそっと撫でる。


「うん」


小さく呟いて、あたしは先輩の傍まで行くと、みんなは気を利かせて、その場から離れていく。


「莉音?」

「……」


昴先輩のその口から呼ばれる事が、もうなくなるんだと思うと、また不意に涙が走ってしまった。


「莉音、」

「うん?」

「お前の涙はどんだけ出てくんの?」


フッと笑った昴先輩は親指であたしの頬に伝った涙を拭う。

そしてあたしの身体をグッと抱きしめた。


「ごめん。絶対に泣かないでおこうって思ってたのに、やっぱり出ちゃった」

「美咲と海外行った時の事思い出すわ。あの時も泣きじゃくってたから。今と一緒」

「だって…。寂しいよ、昴先輩」

「俺も一緒。…莉音。待ってて」

「……」

「俺が日本に帰って来るまで待ってて」

「うん」



そっと離れた身体。

見上げる昴先輩はあたしに笑みを向け、取り出した箱の中から何かを取り出し、それをあたしの首につける。

そっと触れるとネックレスが肌に纏い、また涙が零れた。


「まだ泣くのかよ」

「ありがと」


これ以上泣かないようにとグッと堪え、あたしは昴先輩を見上げて微笑んだ。
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