恋の訪れ
「別にいいじゃん。だって食べたいし、恋しくなってきたし」

「ケーキに恋ねぇ…」

「お前、あれだな。絶対この5年で太るな」


聖くんは焼きそばパンを頬ばりながら馬鹿にしたように笑った。


「ほんとそれー、昴先輩が戻ってきたときには今より10キロは太ってんね」

「太らないよ。大丈夫だも――…」

「おーい、聖っ!は?飯食ってんの?」

「あぁ」


あたしの声を遮ってもう一人現れた人物になんだか眩暈が起きそうだった。

緩く締めたネクタイ。

着崩した制服。

なぜか風貌がサクヤ先輩と似ていて、思わず危険だと認識してしまった。


「あらやだ。また男前登場じゃん」


真理子は更にワクワクしながら楽しみ始めた。


にしても、一年生ですか?

どうみても一年には見えませんが?


「あ、莉音先輩?」


いきなり来た男は何故かあたしの横に座り、そしてあたしをジッと見つめる。


「…え?」


戸惑って、ぎこちなく見るあたしにその男はフッと笑みを見せた。


「ねぇ、先輩。俺と付き合ってよ」

「…はい?」


なんの展開なのか意味が分からなかった。


「うわぉっ、」


隣から真理子の驚きの声とクスクス笑う声。

そんな目の前で聖くんは何事もないように、パンを食べ終わり、挙句の果てにもう一つ買っていた紙パックのカフェオレまでも飲んでいた。


「だーかーらー、俺と付き合ってよ。俺、莉音先輩の事、ずーっと前から好きだったんすよ」

「…はい?」

「付き合って」

「え?…あ、いや…あたし、」

「あー、あれっすか?聖の兄貴と付き合ってっからダメって言いたいんすか?」

「あ、うん。そうだよ、ダメだよ」

「つかさぁー…別によくね?」

「はい?」

「それでもよくねーって」

「いや、ダメでしょ」

「別に言わなきゃバレないっしょ」


シレっとして言い張るこの男。

いったい、なんなの?

あたしがこんな状況にもかかわらず、目の前の聖君はしらんぷりで――…


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