恋の訪れ
「…莉音?」
ポンと肩を叩かれ、その方向にゆっくりと顔を向ける。
「…え?昴先輩、」
目の前に昴先輩がいる。と、思った瞬間、身体がグラングランと揺れだした。
「おーい、大丈夫かぁ?お前。俺だよ、おーれっ、」
その声にハッと意識が舞い戻る。
「え、あ、聖くん…」
制服を着崩した聖君があたしの両肩に手を置いて、顔を覗き込む。
「お前さぁ…俺の事、兄貴と間違えんなよ」
「ごめん」
だって。
だって。
だって。
会いたいんだもん。
でも、その前に、気分悪い…
そんなに揺らしたら気持ち悪いじゃん。
「なんだ、お前」
「……」
「おーい、莉音?」
「聖君…」
「うん?」
「気持ち悪いの」
「はいぃ?」
「なんか気分悪くて、ムカムカする」
「え、あ、お前…、あ、もしかしてお前。あれだよ、あれ、ぜってーあれだってよ、それ!ほらあの――…あ、親父」
聖君が言葉を止めて振り返る。
その聖君と同じように視線を向けると、先輩のパパが不思議そうにあたし達を見てた。
「どした?」
先輩のパパがそう言ってジッと見つめてくると、聖君はあたしの肩から手を放し、
「莉音がよ、気持ち悪いんだとよ」
聖くんはパパにそう言った。
「え?莉音ちゃん、大丈夫?」
「だーからー、そうじゃなくて、莉音の奴、あれだってば――…」
スカートに入れていた携帯の振動で、あたしは手は伸ばす。
そこから取り出して真理子の名前を確認すると通話ボタンを押した。
「りおーんっ、アンタ大丈夫?あんなに食べるからだよ」
「うん」
「少しは落ち着いた?」
「うん、ちょっとだけね」
「もう、帰り際、心配になったからさ」
「うん、ごめんね」
「それ聞いて安心したわ。じゃーね」
真理子の電話を切って、隣にいる聖くんとパパ。
だけど、何故かパパが焦っていて――…