恋の訪れ
「じゃーな、莉音。親父に送っててもらいな」

「あ、え?」


ヒラヒラと手を振っていく、聖君。

絶対にその風貌、高校一年生には見えない。


「え、ちょっと莉音ちゃん?」


焦った先輩のパパの声が耳に飛び込む。

聖くんから視線をパパに向けると、あたしをジッと見た。


「はい?」

「ちょっと話したい事あるからいい?」

「え?」

「ちょっとだけ時間ある?」

「あ、はい」


何をだろうと思った。

先輩のパパと話すこと。

だけど目の前のパパはなんだかさっきよりも焦ってて、先輩のパパが足を進めたとき、


「あ、芹沢社長」


不意に聞こえた女の人の声で、先輩のパパの足が止まった。

同じように視線を向けるとスーツを着て資料とパソコンを抱えた女の人が手に持っている資料に視線を落とす。


「どした?」

「この後、大山さんとの会談がありますが…」

「あー…、悪い。ちょっと聞いててもらってもいいか?折り返し電話するって伝えといてくれるといいから」

「わかりました。あと、19時から海外プロジェクトの会議が入ってます」

「それまでには戻る」

「畏まりました。失礼します」


ご丁寧に頭を下げて行った女の人から先輩のパパに視線を向ける。


「そこ、入ろ」


なんて言って足を進めていくパパの後を追った。


「あの…、大丈夫なんですか?」


喫茶店に入って、アイス珈琲とオレンジジュースを頼む先輩のパパに向かってそう声を掛ける。


「うん?」

「なんか忙しそうですから…」

「え、あぁ…大丈夫。それより莉音ちゃんこそ大丈夫?」

「え?」

「気持ち悪いって、」

「あー…うん、大丈夫です」


そんな事の為に来たんだろうか。

だから食べ過ぎなんですって、言えなくなってしまった。

絶対ここに昴先輩が居たら、馬鹿じゃねーのって、言うに違いない。


「えっと―…その、さっき聖が言ってた事ってほんと?」

「はい?」


パパの目の前にアイス珈琲、あたしの前にオレンジジュースが置かれる。

そのアイス珈琲をブラックのまま口に含んだパパは何故か焦っている。
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