恋の訪れ
「莉音ちゃん、送るよ?」

「いや、いいです。お仕事中なんですよね?」

「あー…うん。でも今から車出して寄るとこあるからついでに送ってくよ。これから何処かに行く用事あった?」

「ないですけど…」

「じゃあ送るよ」

「すみません…」


結局、パパの言葉に甘えてしまった。

なぜかため息が止まらない。

出たと思えば、また出てしまう。


そんな自分に嫌気がさす。


「どう体調は?」


エンジンを掛けるパパに「大丈夫です」と答える。


「なら良かった」


そう言って先輩のパパは頬を緩ませた。

家に着くまで何も話さなかった。

その所為で、余計ないらない事ばかりを考えてしまって、頭の中がパンクしそうだった。


たかが5年。

されど5年。


やっぱ、長い。


「…莉音ちゃん、着いた」


助手席のドアを開けられたことでハッと意識が戻る。

開けられたドアに視線を向けるとパパが表情を緩める。


「あ、すみません。ありがとうございました――…」

「あれーっ、翔さんじゃん。どーしたの?」


弾ける声。

みなくてもお姉ちゃんの声。


「おー、香恋久しぶりだな」

「相変わらず男前のダンディーですね。大人の色気オーラ凄すぎてヤバいですよ」

「ハハッ、この歳になってそんな事いうの香恋くらいだわ」

「えーっ、そんな事ないでしょ。まぢ美咲さんが羨ましい。…って、え?莉音どーしたの?」


車から出るあたしにお姉ちゃんはビックリした表情をする。

ションボリするあたしにパパがそっと背中を撫ぜた。


「うん、ちょっとな」

「あ、あぁ…」


あたしの表情を見て空気を読み取ったのか、お姉ちゃんは、深いため息を吐き出した。


「あんた、ほんとに重症だね」


なんて言ってあたしの両頬を引っ張るから、思わず眉間に皺を寄せ、お姉ちゃんの手を振りほどいた。

相変わらず派手な格好。

ミニスカートで細い足にピンヒール。

だけど派手な髪色は薄い茶色になってて。

その長い綺麗な髪をゆるっと巻き、その綺麗な顔が目に飛び込む。


ほんと。

美人だ。

妹のあたしからしてもそう思う。
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