恋の訪れ
「翔さん、なんか莉音の事で、すみません。ですね…」

「あ、いいよ。莉音ちゃん、またね」

「はい、ありがとうございました」


頭を下げて、玄関に向かう。

背後からお姉ちゃんとパパの声が聞こえてくる。


「香恋、今から出掛けんの?」

「あー、バイト」

「…え?夜の仕事辞めたんじゃなかったのか?」

「あー…ちょっとお小遣い程度にやってるだけです。本業は美容なんで」

「あぁ、なるほどな。そんな頑張ってどーすんだよ、」


パパの声がクスクス聞こえてくる。

玄関のドアを開けても、何故か気になってなかなか締められずにいた。


「その言葉だけは翔さんには言われたくないですねー…」

「なんだよ、それ。…良かったら送ってくよ」

「え、マジ?助かる。また愛人かと思われるわ」

「おいおい、なんだそれ」


あははと。お姉ちゃんの声と、先輩のパパの苦笑い。

ほんと愛人にしか見えないよ。

なんて思いながら玄関のドアを閉めた。


「あ、莉音。おかえり」


リビングに入るとママが居て、夜ご飯の用意をしてた。


「ただいま」

「え、なに?どーしたの?」


ボーっとするあたしに、ママは不思議そうに顔を覗き込んでくる。

そんなママに首を振って、あたしは自分の部屋へと駆け上がった。


ベッドに倒れこんで天井を見つめる。


携帯を取り出して、昴先輩の名前を出す。

だけど、掛けられなくて、また画面を真っ黒にする。


今日は自棄に考え込んでしまった。

1日中考え込んでしまって疲れた所為か、その日は早くに瞼を落としていた。
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