恋の訪れ
「こりゃあ、マジで卒業まで楽しいわ」


真理子は本当に面白そうにケラケラ笑ってて、そんなあたしは真理子に涙目で見つめた。


「無理」

「なーに言ってんのよ。楽しまなきゃ損だよ」

「ヤダよぉ…」

「それにしても、あれだよねー…懐かしい光景だよねー…」


真理子が呟いて、その先に視線を向ける。

その方向は聖くんと伊吹くんで。

周りには女の子が数人いて。

聖くんと伊吹くんの腕に女の子の腕が絡まっていた。


「うん、そうだねー…」


昴先輩も、サクヤ先輩もあんな感じだったなーって思うと懐かしさが込み上げてくる。

ほんと、懐かしいよ。


楽しかったなー…

1年前は、よくわかんない合コンに真理子に誘われて、そこで昴先輩に出会ったんだっけ。

ほんと、つい最近のように感じる。


「ねぇ、莉音?」

「うん?」

「卒業後の事、考えてんの?」

「ううん。なんも考えてないよ」

「だろーね。あんたは何も考えてないよね」


フフっと笑った真理子は紙パックのカフェオレを口に含む。


「え?真理子もうそんな事考えてんの?」

「一応ね。だってもう2年だよ」

「まだ2年でしょ?」

「そんな事言ってたら卒業なんてあっという間だよ」

「でも真理子はもう決めてるじゃん。お姉ちゃんと同じ道に進むんでしょ?」

「今のところはね」

「あたしなんて何も考えてないよ」

「お気楽だねー、アンタは。でも、莉音はデザイナーの道があんじゃん」

「デザイナー?」

「あんた絵描くの好きじゃん」

「好きだけど、なりたいって思ったこと、ないな」

「えー、そうなわけ?だからアンタ専攻科目、美術とってんじゃなかったの?」

「うーん?そんなつもりでとってなかった。ただの趣味」

「勿体なっ。この前のデッサンのコンクールで優勝したんでしょ?」

「うん」

「馬鹿にもとり得あんだねー…」


そう言って真理子はクスリと笑った。


「ちょ、何それ。ひどいよ」


顔を顰めるあたしにクスクス真理子は笑った。




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