恋の訪れ
「よし、行こう。美咲いくぞー」


先行く聖君の背中を見て、未だにあたふたするあたしに、美咲さんは薄っすら笑う。


「なんか、すみません…」

「ううん。いいよ、いいよ。莉音ちゃんに買ってあげようって思ってたんだけどね、新学期に入っていろいろバタバタしてたから買ってあげる時間なかったから丁度よかった」

「なんか申し訳ないです…」

「えー、なんで?そんな事、気にしないでよ」

「おーい、美咲、早く開けて」


駐車場まで来ると、聖君は真っ赤な車の前で足を止める。


「はいはい」


そう言いながら美咲さんは車のロックを解除し、聖君は後部座席へと座り込んだ。


「なにしてんだよ、莉音。早く乗れよ」


ドアをから顔をだして聖君はあたしの方へと視線を送る。

だからあたしも聖君の隣に乗って、ドアを閉めると美咲さんはエンジンを掛けた。


「あれ?聖もケーキ買うの?」


美咲さんが後ろを振り返って、隣に居る聖君をちらっと見る。


「買うわけねーだろうが。俺は繁華街に行きてーから着いてやって来てるだけ」

「もぉ。ちゃっかりしてんだから」


美咲さんが呆れたように呟くと、あたしは苦笑い気味で聖君を見た。


「聖くんってさぁ…いつもそんな感じなの?」

「そんな感じって?」

「美咲さんの事、友達と思ってない?」

「友達じゃねーよ。俺の召使だな」

「ちょっともぉ何ぃ?聞こえてるわよ」


どうやら美咲さんに聞こえていたらしく、深いため息が零れる。

そんな聖君は面白そうに笑ってた。


「あのな、莉音。親孝行は今のうちにしとかなきゃいけねーんだよ」

「それ親孝行って言わなくない?」

「いいんだよ、それで」

「えー…」


前から思ってたけど、やっぱり聖君はよくわからなかった。


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