恋の訪れ
「で、再テストって何点とればいいわけ?」
「70点…」
「こんなんじゃ死ぬ気でやらねーと70点なんか無理だぞ」
「はい…」
「期間は?」
「1週間後です」
「1週間かよ…面倒くせーな」
「すみません…」
「そもそもお前、1週間で覚えられんのかよ」
「頑張る、つもりです」
ため息は吐き捨てながら昴先輩は立ち上がり、本棚が沢山ある所から何冊か抱えてもう一度戻って来る。
ドンと置かれた本を見てみると、どれも英語の資料で、それだけでも意味不明な事ばかり書かれてある。
「とりあえず、間違ってる所直せよ」
目の前にプリントを置かれて、昴先輩は資料をツンツンと突く。
「あ、はい」
と、言ったものの。
間違ってんだから分かるはずがない。
分かってたらとっくに正解している。
訳分かんない資料をペラペラ捲っても、意味が分かんないから調べる事も出来ない。
テーブルを挟んで目の前にいる昴先輩は、関係ないみたいにバイク雑誌に視線を送っている。
これじゃあ、何しにここに居るのかも分かんない。
あー、やっぱお姉ちゃんに頼むんだったな。
同じ馬鹿扱いされるなならお姉ちゃんに言われる方がよっぽどマシだ。
次第にシャーペンを持つ手がスラスラ動き出す。
そのスラスラ動くのは回答しているわけじゃなくて、テスト用紙の後ろに今の状況を絵に埋めていった。
教室でめんどくさそうに頬図絵をついて教科書を見つめているあたしと、目の前の悪魔が不機嫌に雑誌を見ている絵。
我ながら自分でうまく描けたと思った。
昔から描くのが好きだった絵。
趣味の絵がこんな所で役に立つとは思わなかった。
めっちゃ上出来じゃん。って自分を褒めてみる。