恋の訪れ
「お前、やる気あんの?」
不意に聞こえた声に顔を上げると、テーブルに頬杖をついた昴先輩が呆れたように見つめてた。
「あ、ありますよ?」
「絵なんか描いてんのに?」
「ほら、上手くないですか、これ」
バッと広げて昴先輩に見せる。
その昴先輩の目が身構えるように止まって、フッと笑みを零した。
初めて微笑んだ昴先輩の笑みが何故か一瞬、ドキッとしてしまって――…
「馬鹿でも絵の才能はあんだな」
…――それも一瞬で覚める。
「は?なんですか、それ!」
「はいはい。ほら、こっちをしろって、やる気ねーだろ?」
「あ、あります。でも分かんなくて…」
はぁ…と大きくため息をついた先輩は、立ち上がってあたしの左横に移動した。
サッと引っ張られるプリント。
「ここは形容詞」
「え?」
「え?じゃねーよ、とりあえず基本4品詞」
「なんですか、それ」
「お、お前…もしかしてそれ以下レベルか?」
「……」
「マジか、」
「……」
次第に増えていく昴先輩のため息が目障りになってくる。
あたしからすりゃあ、この人が英語ペラペラなんて未だに信じられないんだけど。
「基本4品詞。名詞、動詞、形容詞、副詞。これ絶対覚えろよ」
「……」
「って、お前ノートに書けよ」
「あ、はい」
言われるがままに鞄の中からノートを取り出し昴先輩が言った事を書きうつす。
「特に形容詞と副詞。形容詞の意味は?」
「意味…ですか。あの、人とか物、物事を指し示す語…?」
「馬鹿。それは名詞だろーが」
「あ、でしたっけ?」
「つか、それで1週間で大丈夫なのかよ」
「わかりません…」
そして、あたしのノートを奪った先輩は、そこに何かをひたすら書き続けた。