恋の訪れ
ここまでくると、もういいです。なんて言えなかった。
あたしの為に教えてくれている昴先輩に帰る事なんて出来ない。
でも、聞きとりにくい挙句、手が進まない。
昴先輩が何言ってんのかも分かんない。
「…休憩」
スッと入った声に視線を上げると、左側に居た先輩は何故かあたしの右側に居て、
「一旦、休憩。疲れた」
「あ、はい…」
ちゃんと右耳で拾った声に、あたしは頷いた。
昴先輩は雑誌をもう一度手にとりパラパラ捲り、あたしは鞄の中から瓶を取り出した。
色とりどりの綺麗な金平糖がカシャカシャと音を立てる。
ピンク、白、水色、オレンジ、紫、黄緑、黄色…
その中から、あたしは紫色を一粒取り出し口に運んだ。
ほんのりと甘みが口全体に広がる。
あと、今年は何個残ってるんだろうか。
もう少しでなくなる。
頬杖を付きながら瓶を揺する。
何度もその仕草を繰り返してる内に、隣からある視線に気づいた。
「あ、すみません…」
「……」
「金平糖…です」
「見ればわかる」
「食べ…ますか?」
「いらねーよ」
「甘いもの嫌いですか?」
「あぁ」
素っ気なく返されて、あたしは手に持った瓶をジッと見つめた。