恋の訪れ

「お前、昨日の問題やったのかよ」

「やりましたよ、もちろん」


そう言って、あたしは鞄の中から昴先輩が作った英語の問題の紙を取り出す。

受け取った昴先輩はジッと見つめ、次第に眉がよっていくのが分かる。


「これ調べたのかよ」

「いえ、勘です」

「はぁ!?」

「調べてたんですけど、分んなくなって、あたしの勘です」

「お前さ、真面目にやれよ」

「やってますよ」

「絵だけは真面目にやんのな」


落書き程度に書いた絵の事を言ってるんだろうか。

つい、集中が途切れてしまったら、無意識に絵を描いてしまっている。

それが唯一、ストレスを溜めない事。


グッと右側に寄って来た先輩は目の前に紙を置き、赤ペンで訂正していく。


「-―…お前、環境をkankyouって書いてどーすんだよ、しかも″U″いらねーし」

「……」

「つか、Environmentだろーが。これは形容詞」

「……」

「おい、聞いてんのかよ」

「聞いてますよ。ねぇ、先輩?」

「あ?」

「どうして遅かったんですか?」

「用事」

「なんの用事ですか?」

「てか、それお前に言わねーといけねーの?」


だよね。

言えないよね、そんな事。


女と会ってました。って、

挙句の果てに抱きつかれてました。って、そんな馬鹿馬鹿しい事言えないよね。

あ、そか。

そー言うの、慣れてるもんね、先輩は。
< 84 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop