恋の訪れ
「…おい、聞いてんのかよ、」
微かに聞こえた声にビクンと肩が上がる。
そして先輩は深くため息を吐き捨てた。
「…え?」
「つか、何回言わすんだよ」
「あ、」
そんな何回も言ってたの?
だって、先輩もあたしの左側に立つんだもん。
ごめん、やっぱ今日は疲れてる。
物凄く…疲れてる。
頭がボーっとする。
「-――…毎日少しづつしとけよ、じゃなきゃまた馬鹿みたいな点数とるぞ」
スッとハッキリと耳に入ってきた声。
気づけば昴先輩はあたしの右側に立ってた。
「え、あ…はい」
返されたプリントを受け取りながら昴先輩を見上げる。
どうして移動したの?まるであたしの耳の事を知っているかのように移動した先輩。
でも、そのお陰で聞き取りやすくなったのは確か。
「じゃーな、」
交差点の分れ道まで来ると、昴先輩は素っ気なく言ってあたしに背を向ける。
だから。
「あのっ、」
叫んだ声に昴先輩が足を止めて振り返る。
「ありがとうございます。先輩のお陰で合格できたから」
「俺じゃねーし、お前の実力だろ」
やっぱ昴先輩は素っ気ない。
でも、その言葉がなんだか嬉しかった。