綿菓子と唐辛子


外に出た。久し振りに感じた春風は少し冷たかった。

緑の絵の具を散らしたような木々が、揺れている。


「相坂ー!相坂ー!」


もうすぐにホームルームも始まるのに、このまま帰って来なかったら非常にまずい。新学期早々、やらかした。

しかも相手はあんな女だ。
なにをされるか、何を言われるか分からない。

その前に、女を傷つけた罪にとわれてクラスの奴らから白い目で見られるだろう。


「…くっそ…なんで俺がこんなこと…」


元はと言えば、勇哉が騒いだからじゃないか。俺は何にもしてないぞ。


アイツが探してたから、俺は親切に名前を聞いてやったのに。なんなんだあの態度は。勇哉の野郎、やっぱりあとでシメる。



…あー。

勇哉も、南も、あの変な女も腹が立つ。
俺が何したってんだよ、ったく。



「…あれ、伊藤くんじゃない?」

「…へ」


相坂を探すのに疲れて、自動販売機の前でうなだれていると。

ソプラノの声が、背中のあたりで聞こえた。

そのまま首を後ろに回すと、そこには杉村先生が立っていた。


「…あ、おはようございます…」


杉村先生は、保健室の先生だ。

体育でケガをしたときくらいしか話したことないのに、きちんと俺の名前も覚えている。







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