綿菓子と唐辛子
「あははっ、違うの。あの子ね、今年から転入してきた転校生なのよ。それなのに、学校に来る途中で、噴水に落ちた子供を助けてたみたいで。ずぶ濡れになって学校来ちゃっててね…」
「…転校生……?ずぶ濡れ……?」
「そうよ。少し無愛想だけど、とても優しい子でしょ。まだ寒いから、保健室で慌てて乾かしたんだけど、いつの間にか保健室からもいなくなっちゃってたから、クラスに戻ったのかなあって」
「ー…」
…そっか……。
やっぱり、転校生だったのか。どうりで初めて聞く名前だと…。
でも、ジャージ姿にそんな理由があったとは…。ちょっと、変なやつって言っちゃって、申し訳なかったな。
「…先生、でも俺、そいつにすげー顔でキレられたんだけど」
「え?」
「…なんでもない。でも、渡しとく、ちゃんと」
…謝らなきゃ、と思った。
俺に悪気がなかろうと、確かに向こうにしてみれば失礼だったのかもしれない。
ジャージ姿でいて、転校生で、クラスの奴からの目に怯えていたのかもしれない。緊張していたのかもしれない。
…そんなことを考えると、相坂姫芽を見つけたくてたまらなくなった。
「相坂姫芽ーー!出てこーーい!!」
俺が初めて、女の子相手に必死になった時だった。
今までどんな理由があろうと、こんなに走ったことなんかない。こんな大声を出したこともない。
「相坂姫芽!さっきは悪かった!謝りたいから、出てこいよーー!」
…俺の大声にビックリした生徒が、何人かクラスから顔を出していた。