綿菓子と唐辛子


…しばらくひとつの名前を呼び続けていたら、チャイムが鳴った。予鈴だ。

もしかしたらもう、相坂姫芽はクラスに帰っているのかもしれない。

ホームルームも始まるし。


「…はあ。帰るか」


ポツリと呟いて、俺のクラスがある校舎に向かおうとした。



…その時だった。



「…な、なつ………ッ」

「…!」


背後の茂みから、かすかに、小さな声がした。

その声にビックリして振り返るけど、そこには木が立っているだけで他には何もない。


…なにも、ない?

いや、だけど、今確かに、誰かの声が聞こえた気がするんだけど。



「な、なつ…ッ。た、助けて……」

「…?!」

「ここだ…っ。お、下りられない……」

「…ぅ…、わぁ!!!」


ビックリしたー!…と、言いたいところだったが、ホームルームもあっている手前、大声は呑み込むしかなかった。慌てて手のひらを口元に押し当てる。


震えている声がするほうに体を向けてみると、そこには木にしがみついてるジャージ姿の女が1人。


「な、お前何してんの…?」


それは間違いなく、さっき俺にキバを向けた女だった。




< 14 / 265 >

この作品をシェア

pagetop