綿菓子と唐辛子
…しばらくひとつの名前を呼び続けていたら、チャイムが鳴った。予鈴だ。
もしかしたらもう、相坂姫芽はクラスに帰っているのかもしれない。
ホームルームも始まるし。
「…はあ。帰るか」
ポツリと呟いて、俺のクラスがある校舎に向かおうとした。
…その時だった。
「…な、なつ………ッ」
「…!」
背後の茂みから、かすかに、小さな声がした。
その声にビックリして振り返るけど、そこには木が立っているだけで他には何もない。
…なにも、ない?
いや、だけど、今確かに、誰かの声が聞こえた気がするんだけど。
「な、なつ…ッ。た、助けて……」
「…?!」
「ここだ…っ。お、下りられない……」
「…ぅ…、わぁ!!!」
ビックリしたー!…と、言いたいところだったが、ホームルームもあっている手前、大声は呑み込むしかなかった。慌てて手のひらを口元に押し当てる。
震えている声がするほうに体を向けてみると、そこには木にしがみついてるジャージ姿の女が1人。
「な、お前何してんの…?」
それは間違いなく、さっき俺にキバを向けた女だった。