綿菓子と唐辛子
早く家に入りな、と言うと、ヒメはにっこり笑った。
隣の部屋。一人暮らし。
会いに行こうと思えば、すぐに会える距離。
だけど、俺たちはまだ、距離を縮められずにいる。
「…ナツ」
「…ん」
別れ際に、ヒメは俺に抱きつくようになった。
そんなヒメを、俺は抱きしめて。
頭を撫でる日々が、ここ数ヶ月続いている。
気がつけば、ヒメと恋人同士になって、早くも4ヶ月が経とうとしていた。
「また明日ね、ナツ」
「おー」
…まだ、いまだにヒメのことは、よく分からない。
プールの時に会ったやつが言っていた一言も気になってはいたけど、ヒメから何かを聞くわけでもなく。
何か、障害が出てくるわけでもなく。
ただ、毎日が幸せだからそれでいいかなって思っていた。
…でも、俺は、この時のヒメの笑顔の裏に隠れていることを、まだ、何も知らない。
「バイバイ、ナツ」
この笑顔が、俺の前からいつかは消えてしまうことを、まだ俺は、知らない。