綿菓子と唐辛子
「そっちの条件は分かりました。けど、そんなん言う前に、いっかい、ヒメに代わってください」
『…』
向こう側で聞こえるヒメの声。
別に、深いことは聞かない。何かしら、考えがあってのこと。
それは分かっているから。
大丈夫、俺は、ヒメのことは信じているから。
一瞬戸惑ったとはいえ、ヒメが、俺を裏切るなんてことはないから。
『…ナツ………?』
だって、こんな弱々しい声で俺を呼ぶなんて。
俺のこと好きじゃないんだとしたら、そんなの、どれだけ恐ろしいんだ。
「…ヒメ、」
『ナツ…、お願い、こないで……』
…その言葉も、きっと、ヒメの考えがあってこそなんだって、ちゃんと分かってるよ。
『…お願い…ナツ。こないで…』
「どうして?」
『…嫌われたくない………』
「嫌わないよ。嫌いになんかならないから。つーか、なれないから」
『…っ』
受話器の向こうで、鼻をすする音がした。
…ヒメ、泣いているのかな。
「ヒメ、俺はね、お前のこと信じてるから」
『…っ』
「今、本郷とかいうやつと一緒にいるんだろうけど、なんか事情があるんだろ。それなら、いいから。今すぐ行くから」
『ナツ…』
「嫌いになんか、ならねーよ。だから…」
だから、お願い。
「俺にも、ヒメの痛みを、わけてよ」
その涙、半分は俺が流すよ。
俺のところを離れてじゃなくて、俺の元でも泣けるように、そんな存在になってみせるから。