綿菓子と唐辛子
あまり納得もいかないまま、俺は本郷に連れられてバスに乗った。
東京に住んでいるとはいえ、たいして栄えている街に住んでいるわけでもない。
バスから見える景色は、さほど東京と変わらなかった。
「…別に、じっと見るべきものなんてないでしょう?」
窓をずっと見つめていた俺に、本郷は話しかけてきた。
俺の方を見るわけでもなく、ただなんとなく前を見つめて。
「すげー田舎なんですよ。この間、夏に東京行った時も、思いましたけど」
「…」
夏?夏とは、この間プールで会った時の、あれか。
「田舎だ…こんな場所。でも、のどかで、いいところなんです」
「…」
少しだけ口角をあげていた本郷。
でも、その顔はそのあとすぐに曇りを見せていた。
「…姫芽にとっても、そうだったんです。最初は」
「…ん?」
「姫芽も、この土地が好きだった。けど、離れなきゃいけなくなったんです」
「…」
どうして、と、聞こうとしたが、本郷はそれはまだ言うなと言うように俺の方をチラと見ていた。
「…また、着いてからお話します」
だから、俺は、バスに乗っている間中、何もいえなかった。