綿菓子と唐辛子


「本郷」

「ん?」


黒い影が伸びるのを、二人でなぞりながら歩く。


「…ヒメ、どうだった」

「…どうだったって?」

「何も、言ってなかった?」


ひと駅分が、こんなに長いとは思わなかった。
まだ、たった7分程度しか歩いていないのに、もう1時間とくらい歩いている気分になってくる。


「何も、っていうか。俺は姫芽とは話してねぇし」

「え、そうなの」

「そーだよ。それとも、なに。俺が一番に話してよかったわけ?」

「…」



…本当に、本郷はよくできた男だと思ってしまう。

見た目はこんなんだけど、きっとヒメは本当にこの男のことが好きだった時期があったのだろう。


…もしかして今も。
なんてことは思わないけれど、ヒメが好きになってもおかしくないくらい、良い人だっていうのは分かる。



「なんすか、黙って。あと少しで会えるんだから元気出してください」

「…」



…ヒメは、本当に俺でいいのかな。


本郷みたいに、ヒメの一番辛い時を見てきたわけでもない。
母親に会ったことがあるわけでもない。

ヒメが置かれていた状況を、今もいまいち理解できずにいる俺を、ヒメは本当にもう一度受け入れてくれるのだろうか。







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