綿菓子と唐辛子
それから、車に乗ってヒメの実家に向かった。
着いたのはやっぱり1時間後くらいで、ほんの少しドライブ気分を味わえた。
「さ、着いたわよ。今日はもうゆっくりしましょう」
ヒメのお母さんの声を合図に荷物を降ろして、そのままヒメの実家に入る。
…と、そこで。
「や、俺はここまでで大丈夫です」
本郷が、笑いながら手を挙げた。
「本郷くん、あがっていかないの?」
不思議そうに見るヒメの母親。俺の隣でヒメも、少し不安そうな顔をしていた。
「ここまでで大丈夫です。俺、さすがに家に帰らないとまずいんで」
ハハハ、と笑っている本郷。
でも、きっと俺たちに気を使っているんだということは分かる。
それでも、帰るという人を無理矢理連れ込むようなことは俺にはできなくて、それを見たヒメのお母さんも、「そう」と呟いていた。
「わかったわ。じゃあ、またの機会に」
「はい!お願いします!」
それじゃ、と、軽い挨拶で目の前を去っていこうとする本郷。
いや、待って。そんなに軽く帰られると、俺も困る。
ここまでお世話になってきたのに、そんな簡単な挨拶で返してたまるか。
「…本郷!」
走って、呼び止めて、通せんぼして。
まだ帰るなと、引き止める。