綿菓子と唐辛子
二人を残して家に入ると、ヒメのお母さんはバタバタと家の中を歩き回っていた。
窓を開けたり、お茶を出したり。
でも、その間も、ずっと俺のことを気にかけてくれていた。
「ナツくん、今日は学校だったんじゃないの?月曜日でしょ」
…よく聞くと、声もヒメにそっくりだ。
「はい。でも、俺真面目なんで、今日明日休むぐらい、どーってことないっすよ」
「あらっ!大丈夫なのかしら」
ハハハ、と、優しく笑うお母さん。
冷蔵庫から氷を出して、麦茶を出しているようだったので、俺も手伝った。
「…ナツくん、今日は本当にありがとうね」
カラン…と、氷が涼しい音を立てる空間。
その中で、ヒメのお母さんは、どことなく寂しそうに呟いた。
「いえ、とんでもないです。俺が来たくて来ただけですから」
…そうだ、全部俺がしたくてやっていることだ。ヒメやヒメのお母さんが謝ることではない。
「あの子も、きっと嬉しかったと思うわ。裁判が決まってから、ずーっと落ち込んでいたから」
「…ヒメが?」
「そう。…ほら、せっかくの誕生日だったじゃない」
「…」
…確かに、そうだ。